【12月19日 AFP】内部告発サイト、ウィキリークス(WikiLeaks)創設者のジュリアン・アサンジ(Julian Assange)容疑者(39)を性犯罪の容疑で告訴した31歳と27歳のスウェーデン人女性2人は、そろって沈黙を保っている。

 スウェーデンの検察は2人の身元を明かしていない。また、スウェーデン当局が要請しているアサンジ容疑者の身柄送還について行われた英裁判所の審理では、2人は「ミスA」、「ミスW」と呼ばれた。2人はいずれも、8月14日に行われたイベントでアサンジ容疑者と知り合った。

 この日、スウェーデンのストックホルム(Stockholm)では、社会民主労働党(Social Democratic Party)のキリスト教系団体が主催した「戦争の最初の犠牲者は真実」と題するイベントが開かれ、アサンジ容疑者はここで講演を行った。

■ブログを残した31歳女性、フェミニストのライターを自称

 ミスA(31)はこの主催団体で働いており、アサンジ容疑者がイベントのために滞在している間、非公式に報道陣とのパイプ役を果たしていた。

 また、AFPが入手した女性の供述調書によると、ミスAはアサンジ容疑者がストックホルム入りした8月11日から、容疑者を自宅に泊めた。

 スウェーデンのタブロイド紙は、ストックホルム市内にあるミスAの自宅マンションで、両者が数回にわたり性交したと、詳細を交えて報じているが、供述調書では詳細は確認できなくなっている。

 英裁判所での審理に派遣されたスウェーデンの検察官は、アサンジ容疑者は8月14日にこの女性を押し倒しており、この行為が強制わいせつにあたると主張した。

 さらに8月18日、女性がアサンジ容疑者に、コンドームを使用して欲しいとはっきり要望したにもかかわらず、コンドームを使用せずに性交したことは痴漢行為にあたり、さらに同じ夜にアサンジ容疑者が「この女性の性的な品位を侵害する様態のわいせつ行為を故意に」行ったと主張した。

 一方で、アサンジ容疑者は8月20日までミスAの部屋に滞在し、8月15日には彼女を連れてパーティにも出席していた。

 ミスAはブログの自己紹介で、「政治学者、コミュニケーター、起業家であり、宗教や政治、男女同権、フェミニズム、ラテンアメリカの専門知識があるフリーランスライター」だと書き込んでいる。修士論文のテーマはキューバで、アルゼンチンの故ネストル・キルチネル(Nestor Kirchner)前大統領を称賛している。

 さらに現在は削除されているが、元ボーイフレンドに復讐する方法について書き込んだこともあったことから、米国防総省に目をつけられたアサンジ容疑者を陥れる意図がミスAにはあったのではないか、との憶測がインターネットを駆けめぐっている。

 ミスAは今月に入ってツイッター(Twitter)に「CIAの工作員、怒れるフェミニスト/ムスリムを愛する人物、キリスト教原理主義者、レズビアン、男性を激しく愛する者、このすべてに同時になるなんてことができるかしら」と書き込んでいる。

■謎が多い27歳女性、熱烈なアサンジ信奉者か

 ミスW(27)も8月14日、アサンジ容疑者の講演を聴いていた。報道陣が多数詰めかけた会場で、明るいピンク色のジャンパーを着て最前列に陣取ったこの女性の職業や経歴などは、ミスAほど明らかになっていないが、供述調書にはアサンジ容疑者への憧れと出会った経緯が詳しく記されている。

 調書によるとことし7月、アフガニスタン関連の米政府の機密文書をウィキリークスが公開したことについて語るアサンジ容疑者をテレビで見て、「興味深くて勇気がある、称賛に値する人物」だと思ったという。

 アサンジ容疑者が8月14日にストックホルムで講演することを知ったミスWは、このイベントに参加し、講演後もアサンジ容疑者や彼の友人たちと一緒に夜を過ごしたいと言い張り、最終的に映画館でアサンジ容疑者と2人きりになった。そこでじゃれあいながら、アサンジ容疑者から「とても魅力的だ」と語りかけられたとミスWは供述している。

 2日後、2人はストックホルムの北西約50キロのエンヒェーピング(Enkoeping)にあるミスWの家へ行った。しかしアサンジ容疑者が「電車の中で、自分についてのツイッターの書き込みばかり見て」いたため、家に着いたころには「情熱や興奮は冷めていた」と、ミスWは捜査官に語っている。

 アサンジ容疑者の強姦容疑が問われているのは、この夜の出来事だ。その夜ミスWが寝ているときに、アサンジ容疑者がコンドームを使用せずに性交をしたことが強姦にあたると、スウェーデン検察は主張している。

 翌朝、2人は共に朝食をとり、ミスWは「前夜の出来事は大したことではないと思おうと、二言三言、皮肉を言った」。その後、ミスWはアサンジ容疑者を駅に送り、容疑者はあとでミスWに電話をすると約束したという。

■当初は告訴の意図なし

 2人の弁護士、クラエス・ボルグストレム(Claes Borgstroem)氏によると、2人の女性は後になって、互いにアサンジ容疑者との間に似たような出来事があったことを知り、8月20日に警察へ行った。しかし2人は「当初から告訴したいという意志があったわけではなく、警察の助言を受けたかった」だけだったという。また2人はHIVに感染した可能性も恐れていた。

 相談を受けた婦人警官が犯罪の可能性があることに気づいて検察官に報告し、この検察官がアサンジ容疑者の逮捕を決定したという。

 翌日、タブロイド紙エクスプレッセン(Expressen)の一面で報じられ、一気にスキャンダルに発展した。

 アサンジ容疑者はまだ起訴されておらず、同容疑者の弁護団は、スウェーデン当局の主張を裏付ける証拠は何一つないとしている。一方、スウェーデンの検察側は、アサンジ容疑者に対する追及は、ウィキリークスの活動とは無関係だとしている。

 現在、ミスAは所属するキリスト教系団体の活動でパレスチナ自治区に滞在している。ミスWは電話が繋がらない状態が続いている。(c)AFP/Marc Preel