【1月18日 AFP】(一部更新、写真追加)インド政府は18日、ミャンマーからタイへの難民数百人がタイ海軍によって拘束された後、洋上へ放置されインド沖で遭難しているとし、タイ政府を強く非難した。

 インド沿岸警備隊は同日、ミャンマーとバングラデシュ国境に住むイスラム系少数民族ロヒンギャ(Rohingya)の難民数百人を救助したと発表した。同警備隊はさらに数百人が行方不明になった恐れがあるとみている。

 インド側は、タイ沿岸にボート難民として漂着したロヒンギャの移住希望者を、タイ海軍が拘束し、外洋までけん引していき置き去りにしたと、タイ政府を非難している。

 タイ政府はこの説明を否定しているが、生存者の証言やインド沿岸警備隊の最新報告によって同政府への圧力が強まった結果、19日に人権擁護グループらと会見するとしている。

■タイ軍艦船でえい航して沖合いに放置か

 インド領アンダマン諸島(Andaman Islands)とニコバル(Nicobar Islands)諸島を管轄する警察の幹部は「彼らはタイ沖の島に連行され、そこで暴力を受け、無理やりボートに詰め込まれてボートごと外洋に置いていかれた」と語った。

 AFPの取材に応じたインド沿岸警備隊のS・P・シャルマ(S.P. Sharma)司令官によると、まだ数百人が行方不明になっている恐れがある。インドは前月末以降、ボート4隻に乗っていた446人の難民を救出したという。香港英字紙サンデー・モーニング・ポスト(Sunday Morning Post)も行方不明者と死者の合計が538人に上ったと報じている。

 シャルマ司令官は、難民たちはタイ当局に拘束され、エンジンや航海装備のない船で沖に放り出されたと述べた。「数人の生存者がタイ軍によって沖までえい航されたと証言している。海の真っただ中に置き去りにされる前に、米飯2袋、水2ガロン(約8リットル)が与えられたようだ」(シャルマ司令官)
 
 タイ政府は、分離独立を主張する南部の反政府勢力と激しく戦っており、過去5年間で3500人以上が死亡している。このため政府はあらゆる移民の大量流入に神経をとがらせている。

 しかし、タイ側は海軍、政府ともにインド側の非難を否定している。タイ海軍のPrachachart Sirisawat報道官は「当局は密入国者を拘束した際の通常の手続きをとった」とAFPに反論した。
 
 一方で、証拠写真やアンダマン諸島を最近訪れた欧米人旅行者らの証言が次々に明らかになり、インド側の主張を裏付けている。浜辺に並んだ難民たちが頭上で腕を縛られている写真も報道された。

■ミャンマー軍政の迫害逃れるロヒンギャ人

 国連難民高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for RefugeesUNHCR)では前週、疑惑が浮上した段階ですでにタイ政府に接触したが、これまでのところタイ政府からの回答はないという。

 イスラム系少数民族ロヒンギャの人びとは国家に属さず、ミャンマーの軍事政権に迫害されている。このため貧困と抑圧を逃れ、毎年数千人がイスラム教国であるマレーシアへの逃亡を目指して小船での脱出を図っている。

 米ニューヨークに拠点を置く国際人権監視団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights Watch、HRW)」のミャンマー専門家、デビッド・マシソン(David Mathieson)氏によると、タイ経由の亡命の増加を阻止したいタイ政府はここ数年、同国沿岸に漂着したロヒンギャの難民たちに過酷な対応を行っている。

 またこうした措置は、難民たちの一部がタイの反政府勢力に合流することをタイ政府が恐れたからでもあるが、マチソン氏はそうした懸念を裏付ける証拠はないと述べた。(c)AFP