【2月27日 AFP】米国、オーストラリアの両当局は26日、アルプスの小公国リヒテンシュタインの金融機関を使った脱税行為を調査しているドイツ当局に合流し、合同捜査を開始した。

 米国内国歳入庁( Internal Revenue ServiceIRS)は「海外への資産逃避による租税回避との戦いは重要課題だ。税制の悪用を防ぎ、納税者が確実に義務を果たすよう努めていく。租税回避や脱税の隠れみのとなる場所などないということを一連の捜査で明確にしたい」と発表した。

 同庁は現在100人以上の米国人がリヒテンシュタインに持つ口座を調査している。オーストラリア当局も20件について捜査しているという。

 各国の租税当局の間でリヒテンシュタインに口座を持つ外国人名簿が共有されており、スペインは名簿に掲載されていた自国民数人を調査中と発表、イタリアとフランスもこれに続いた。すでにスウェーデンもリヒテンシュタイン国内の銀行口座の調査を開始しており、今回の事件は経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち9か国が関係する国際的な広がりを見せている。

■捜査を主導する独当局、流出顧客名簿から追跡

 ドイツの捜査当局は当初、リヒテンシュタインの資産管理運用グループLGTLiechtenstein Global Trust)に焦点をあてていたが、現在は別の外資系金融機関に調査の比重を移しているという。

 ドイツのHans-Ulrich Krueck連邦検察官によると、顧客の資産計数十億ユーロ(数千億円)をリヒテンシュタインの信託に移行して脱税を支援した疑いでドイツの複数の銀行を捜査中にこの外資系金融機関の関与を示す情報を得たという。

 同検察官は金融機関の名前や拠点について触れなかったが、日刊紙南ドイツ新聞(Sueddeutsche Zeitung)は「当局の標的はスイスの民間銀行グループ、フォントーベル(Vontobel)がリヒテンシュタイン国内に持つ系列企業」だと報じた。

 スイスのチューリヒ(Zurich)にあるフォントーベル本店広報は26日、報道を否定したが、リヒテンシュタインの同銀系列Vontobel Treuhandの取締役が以前、LGTグループに勤務していたことを明らかにした。また支店の顧客データが違法あるいは不適切な目的で流出したものでないことを確かめたいとしている。

 一方、LGTグループは25日、ドイツ情報当局が入手した顧客情報は、元従業員に盗まれたデータだと認めた。

 一連の捜査は脱税関連でドイツ史上最大規模となっており、根拠となった証拠はLGTから流出した部外秘の顧客名簿で、ドイツ情報機関が420万ユーロ(約6億8000万円)で入手したとみられている。

■リヒテンシュタインは反論「脱税ではなくプライバシーの確保」

 ドイツでは裕福な事業家や著名スポーツ選手、芸能人ら1000人もが税当局の目を逃れ、総計40億ユーロ(約6400億円)をリヒテンシュタイン内の秘密信託に預けていた疑いが浮上している。

 Krueck連邦検察官によると、初動の10日間の捜査で約150人の国内関係者の事務所や自宅の捜索を行った。うち91人が租税回避を認め、滞納分としてこれまでに計2780万ユーロ(約45億円)を収めた。捜査が進むにつれ徴収額も増えているという。

 今回の事件は今月初め、郵便事業大手ドイツポスト(Deutsche Post)のクラウス・ツムウィンケル(Klaus Zumwinkel)前会長邸に対する家宅捜査をドイツのテレビ局が放映したところから注目を浴びた。

 リヒテンシュタイン側は、ドイツなど「近隣の大国によるいじめだ」と反発しており、「国家権力の増大に対し、市民の私的権利は確保されるべきだ」と反論している。(c)AFP