【6月20日 AFP】中国山西(Shanxi)省洪洞(Hongtong)のれんが工場における強制労働の実態が明るみとなり、中国の劣悪な労働実態が急成長する経済の「暗部」として浮き彫りにされたが、こうした劣悪な環境を当局関係者らが積極的に支えていると人権団体らが告発している。

 れんが工場での実態は過酷さが群を抜いていたが、中国国内では児童労働や労働者に対する日常的な虐待例などが無数にあるとみられる。しかも、こうした実情を取り締まるどころか、経営者らと結託し、支援さえしている政府当局関係者らもいるという。

■「自治体当局の関係者までもがマフィア化している」

 国際人権監視団体「ヒューマン・ライト・ウォッチ(Human Rights WatchHRW)」のNicholas Bequelin氏によると、最低賃金に近い給与や下宿の強要と下宿代差し引きの強制、移民労働者を売買する業者の暗躍など、中国国内における労働者の人権蹂躙問題は増え続けている。
「労働者の酷使は中国では広くみられ、問題は深刻化している。法を守るべき自治体当局の関係者たちまでもが『マフィア化』している、と中国の研究者たちは警告している。当局がギャング団や人身売買業者と(劣悪な労働条件を維持するために)結託している」という。標的とされがちなのは「是正する方法を持たない人たち。精神障害を抱える人々やだまされた人々、子どもなどだ」。

 児童労働や強制労働について信頼に足るデータは得られていないが、「数百万人」におよぶ子どもたちが、危険な職場や集約産業などで働かされているだろう、とBequelin氏は述べる。労働現場の深刻な劣悪化については、約15年前に中国が大規模な工業成長を始めた頃までは聞かれなかったという。中国の経済的奇跡の暗部といえる。

 国営新華社(Xinhua)通信が今週報じた上海市および河南(Henan)省のれんが工場の実態によると、奴隷状態で働かされ、解放された労働者532人のうち18歳以下の若年者が50人以上おり、中には8歳の児童もいた。また、黒竜江(Heilongjiang)省では最近、労働者収容所で「奴隷化」されていた移民100人が発見された。

■雇用側への処分は一時的な操業停止にみ

 しかし、雇用側に対する処分は甘く、南部の広州(Guangzhou)市で労働者を虐待していた企業に科された処分は一時的な操業停止のみだった。「虐待を行っていた側は拘束もされず、損害賠償も請求されない。関連当局はこうした事例からもっと学ぶ必要がある。自らの立場を悪用し、義務を果たさない当局関係者らに対しては厳罰を科すべきだ」と新華社通信は当局の対応を批判する。

  こうした悪状況が存在するにもかかわらず、香港に拠点を置く労働権利団体、中国労工通報(China Labour BulletinCLB)のロビン・ムンロー(Robin Munro)氏の元へは、労働者虐待について積極的な調査・告発をいずれかの政府機関が行っているという情報は入っていないという。
「中国政府はいかなる統計も出していない。絶対に必要だ」

 CLBでは数週間以内に、児童労働に関する実態を調査した報告書を発表するという。国内3つの省で、100人以上の児童、保護者、労働者、教師らの聞き取りを行った。報告によると、児童労働者が集中する年齢層は違法である14歳から16歳。しかし、インドやパキスタンで見られるその年齢以下の児童労働に関する証拠が存在しない。また、児童労働は地方部の農民家庭の困窮が原因で、教育制度が機能していないことが拍車をかけている。
「中国が教育にかけている予算はGDPの3%。世界で最も低い数字だ。調査で、親たちが目先の利益に捕らわれていることも明らかになった。子どもに教育を受けさせることで生まれる長期的な利益を、まったく理解していない」とムンロー氏は述べる。
「子どもたちはそうした貧困状況から逃れるために高等教育を受けるのではなく、都市へ出稼ぎに出されている」

■蔓延する低賃金と不当な支払い

 一方、香港に拠点を置くCLSA証券の主任エコノミスト、ジム・ウォーカー(Jim Walker)氏は、中国の雇用者たちの中に悪質な業者が存在することは認めるが、「奴隷」状態は非常にまれな例だと主張する。より一般的な問題は、低賃金と不当な支払いであり、これらは経済成長の産物であると同時に、「世界の工場」としての影の部分だという。「制度的な問題ではない。経済成長の問題だ。南部で旧正月の休暇後に職場に戻らなかった労働者が、過酷な目にあった事件があったが、こうした事態は時間と共に通常は消えていく」と述べる。

 しかし、CLBのムンロー氏は、時間と共に改善されるとは昔の話だと一蹴する。
「現代は(香港を領地としていた)英国のビクトリア時代ではない。われわれの政府には説明責任がある。中国には労働関連の法があり、政府は自分の法を実行する責任がある」(c)AFP/Guy Newey