【4月12日 AFP】ロシアで発生したポーランド大統領搭乗機墜落事故がもたらす衝撃は、かねてより問題含みだったロシアとポーランドの関係を大きく変える可能性がある――そして、ポーランドとロシアの関係の変化は、欧州内の東西関係という、より広範囲な政治に影響をもたらすかもしれない、と専門家らは指摘する。

Russia in World Affairs」誌の編集者で政治アナリストのフョードル・ルキヤノフ(Fyodor Lukyanov)氏は、「(ロシアと)ポーランドの2国間関係のムードは、東欧全域に大きな影響を与える」と指摘する。

 旧ソ連のバルト3国を含む、かつてワルシャワ条約機構に加盟していた旧東側諸国は、近年、欧州連合(EU)で外交政策への発言力をますます強めている。そして、EU加盟国のポーランドは、旧ソ連衛星国で最大の国として、とりわけこれら旧東側の東欧諸国に強い影響力を保ってきた。

 もちろんロシアは、同じく東欧への強い影響力を持つドイツとも極めて良好な関係を維持している。しかし、EUの政策決定における「東西」の綱引きの中で、ロシア・ポーランド関係が最も重要であることに変わりはない。

 EU加盟各国の対露関係はそれぞれ異なるが、仮にロシアとポーランドの2国間関係が改善すれば、それはロシアとEU間の全般的なムードの改善をもたらす可能性が高い。しかし、それは同時に、墜落事故の影響でポーランドが再びロシアに不信感を持つようになってしまえば、EUの東西緊張はまだまだ続くことになる可能性もあるということでもある。

■ポーランドに配慮するロシア

 ルキヤノフ氏は、「(ロシア側は)調査から遺体の身元確認まで、ポーランドに協力するためのありとあらゆる手を尽くしており、ポーランドとの連帯や支援という点で最善を尽くしたといえる」と述べる。「ポーランドのレフ・カチンスキ(Lech Kaczynski)大統領は、控えめに言って、ロシアの友人ではなかった。それにもかかわらず、ロシアの指導者たちは最大限の敬意を払って対応した」という。

 ルキヤノフ氏は「この事故は陰惨さを象徴している。ポーランドでは、ロシアと関係することがらはすべて悲惨で悪いものだという考えが再び持ち上がるかもしれない」と指摘する。「たとえ事故原因がパイロットのミスによるものだと判明したとしても、KGB(旧ソ連国家保安委員会)がカチンスキ氏を殺したと言う人はいなくならないだろう」

 一方、政治アナリストのドミトリー・バビッチ(Dmitry Babich)氏は、墜落事故によってロシア・ポーランド間の関係が即座に悪化したり改善したりすることはないと述べる。とはいえ、いずれにしても広範囲に影響をもたらすことにはあるだろうと指摘する。

 バビッチ氏は、ラジオリバティー(Radio Liberty)に対し、「陰謀論が無いことを望むが、しかし残念なことに、ポーランド・ロシア関係ではどちらの国でも陰謀論が出ている」と語った上で、「奇妙にみえるかもしれませんが、この悲劇により、ロシア・ポーランド関係が改善する可能性もあるのです」と述べた。

■歴史的なあつれきを乗り越えられるか

 墜落事故の3日前には、ポーランドのドナルド・トゥスク(Donald Tusk)首相と、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相が、第2時世界大戦中の1940年にポーランド人が虐殺された「カチンの森」事件の追悼式典に出席したばかりだった。また、死亡したカチンスキ大統領も、この追悼式典に出席するためにカチンへ航空機で向かっている最中だった。

数十年間にわたってソ連軍の虐殺関与を否定していたロシアにとって、事件は現在も非常に繊細な問題となっている。

 しかし、プーチン氏とトゥスク氏の首脳会談の直前には、ロシアの国営テレビが、旧ソ連軍がカチンの森でポーランド人を虐殺した様子を描いたドキュメンタリー映画を放映するという画期的な出来事があった。こういった放映は、ロシア当局の承認がなければできない。

 また、ロシア外務省は、10日の墜落事故発生から数時間以内に、ロシア当局による墜落事故の調査や身元確認に加わるポーランド側の要員に対してビザ(査証)をただちに発行すると発表していた。さらに11日には、ロシア当局は、ポーランド側の専門家も事故のあらゆる調査に携わったということを繰り返し伝えた。

 一方、人権団体「メモリアル(Memorial)」のアルセニー・ロジンスキー(Arseny Roginsky)氏は、ロシアとポーランドの歴史的な関係は非常に重いものだと述べ、「ポーランド人の意識にある『ロシアフォビア(ロシア恐怖症)』はますます強化されるだけだろう」とラジオリバティーに述べた。「ロシア人による罪を探そうとすれば、何かしらかの確証は得られる。国の指導者が何を言っているかの問題ではない。人々が何を信じているかというのが重要なのだ」

(c)AFP/Christopher Boian