【東京 24日 AFP】日本では「最も危険な国」と敵視されがちな北朝鮮。在日コリアン2世の梁英姫(Yang Yong-Hi)監督(40)は、その北朝鮮と日本に分断された自身の家族の姿を映像に撮ることで、北朝鮮の人々も「同じ人間」とのメッセージを日本人に届けようと試みた。
梁監督は10年にわたり、大阪の在日朝鮮人総聯合幹部だった父親と母親、そして現在は北朝鮮に住んでいる3人の兄の姿を撮影した。合計120時間にも及ぶビデオ映像は、政治とは無縁の、温かみあるドキュメンタリー映画、 「Dear Pyongyang-ディア・ピョンヤン」を生み出した。
■平壌は身近な街、「どこにでもある日常を伝えたい」
「私にとって平壌は、兄や甥、姪たちが住んでいる場所。北朝鮮の首都だとか、革命都市などと意識したことはない」と梁監督は語る。
核開発を宣言した北朝鮮が7月5日、日本海に向けてミサイル7機を発射したことを受け、日本政府は北朝鮮への制裁措置発動を国際社会へ働きかけるなど、反北朝鮮の姿勢を強めている。これについて梁監督は、「北朝鮮の一般市民まで憎悪の対象とするのは受け入れがたい」と語る。
「だからこそ、私の映画を通じて、北朝鮮に暮らす人々も同じ人間だということを伝えたい。北朝鮮の人々も恋愛をして結婚もする。離婚する人もいる。子どもたちはかわいいし、女性たちはファッション、大学生はインターネットに興味を持っている」。
日朝関係の緊張が高まる中での公開は、絶好のタイミングといえるかもしれない。しかし、北朝鮮に対する彼女の想いは複雑だ。
梁監督は、約70万人いる在日韓国・朝鮮人の1人だ。その多くは1910年から1945年の日本の植民地時代に朝鮮半島から移住、もしくは強制労働で連行されてきた人々の子孫である。筋金入りの北朝鮮支持者の両親の下で育った梁監督は、朝鮮人学校で教育を受けた。父親は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部だった。北朝鮮への帰還事業が高まった1970年、父親は3人の息子を平壌へ移住させた。差別の著しい日本社会よりよい生活が待っていると信じてのことだった。
しかし梁監督自身は、日本の民主主義価値観を満喫している。日本人と同様、映画や演劇、コンサートを楽しんでいる。ラジオやテレビの仕事を経験した後、梁監督は映画制作を学ぶため米国に渡った。海外渡航が容易なことから、国籍を北朝鮮から韓国籍に変更している。
梁監督は、総連幹部だった父親の過去や北朝鮮に兄が住んでいる事実を隠そうとしたことはない。「真に自由な社会であるなら、他者との違いも受け入れられるはず。だから、家族についても公に語ってきた」と胸を張る。
■北朝鮮への偏見を生み出すメディアを批判
監督が自身の家族のドキュメンタリー映画を撮ろうと漠然と考え、日本に住む両親と平壌に住む兄の家族らをビデオで撮影し始めたのは1995年。しかし、撮りためた膨大なビデオ映像が映画に仕上がるには10年の歳月を要した。「この映画を作ることができたのは、私自身の成長とともに、家族を客観視できるようになったから」と梁監督は語る。
1959年から1984年、朝鮮総連は北朝鮮への「帰還」を奨励し、在日朝鮮人やその家族約9万人が北朝鮮に渡った。梁監督の3人の兄も北朝鮮に「帰還」した。当時6歳だった彼女が兄たちに再会したのは、その11年後に朝鮮学校の修学旅行で平壌を訪問したときだった。
撮影に際し、平壌に住む兄たちが映画の制作で不利益を被るのではと周囲は懸念したが、梁監督はこれを振り切った。検閲の厳しい北朝鮮で「ディア・ピョンヤン」が公開される予定はない。
兄たちを撮影するシーンは慎重に政治色を排し、梁監督の甥が素晴らしいピアノ演奏を披露するシーンなど、日常生活が描写されている。一方、平壌でのパーティで父親が北朝鮮最高指導者の金正日(Kim Jong-Il)主席に祝杯をあげる場面がある。この場面には「父を理解できない。早くパーティから逃げ出したい」との梁監督の声がオーバーラップする。「国や指導者の名前に触れず、父の姿を通じて自分の考えを表そうとした」と梁監督は説明する。
梁監督は北朝鮮に懐疑的である一方、北朝鮮を「悪の枢軸」と決め付けたジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領の演説など、日本や欧米メディアによる偏った報道姿勢にも批判を隠さない。
「私のように金正日を嫌悪する人間がいるのも事実だが、北朝鮮への偏見と先入観をメディアが煽っている」
「Dear Pyongyang-ディア・ピョンヤン」は、朝鮮半島に関するドキュメンタリー映画の特集企画、「Think Korea」で上映される3本の映画の中の1本。配給元であるシネカノンの広報、呉徳周さんは「北朝鮮への関心は高まっているが、人々は固定したイメージしか持っていない。そこで、朝鮮半島に暮らす人々の多様な姿を描いたドキュメンタリー映画を3本上映することにした」と語る。
「Dear Pyongyang-ディア・ピョンヤン」は、2006年度のベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞、サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞した。日本公開は26日。
写真は映画ポスターの横でポーズをとる梁監督(2006年8月9日撮影)。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA
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